茗溪学園保護者会

高校3年生向けメンタルヘルスの講演会が行われました

「VUCAの時代に人生を切り拓いていく皆さんへ」

~受験を乗り越え、その先の人生にも役立つ「自分を整える力」を学ぶ~

高校3年生を対象としたLHR講演会が行われました。講師は、筑波大学附属病院総合診療科医師であり、茗溪学園卒業生の保護者でもある堀内明由美先生です。

今回の講演会は、「ストレスにどう対応していくかという力は、一生涯を通じて必要なスキルであり、ぜひ身につけてほしい」という学年団の先生方の思いから実現しました。

受験本番を目前に控えた生徒たちに向けて、医師として、また自身も受験や病気を経験した一人として、「心と体を整えることの大切さ」についてお話しいただきました。

自身の経験を交えた講師紹介

堀内先生は茨城県取手市出身。筑波大学医学専門学群を卒業後、現在は筑波大学附属病院総合診療科で診療・教育に携わるほか、地域医療や訪問診療にも従事されています。地域医療では、家庭医として、患者さんの生活に寄り添っておられ、患者さんが亡くなられてからの家族の心のケアなどもされているそうです。学生時代は進学校で学びながら強いプレッシャーや劣等感を抱えていた経験があり、さらに医師となった後には、ご自身の病気による長期療養も経験されました。そうした経験から先生は、「受験で本当に大切なのは『頑張る力』だけではありません。自分の心と体の状態に気づき、整える力が必要です」と、生徒たちに語りかけました。

生徒参加型の講演

講演では、生徒たちがスマートフォンを使って質問に回答し、その結果がリアルタイムでスクリーンに表示される参加型の形式が採用されました。生徒たちは自分の考えや生活習慣を振り返りながら学びを深め、会場には終始和やかな雰囲気が流れていました。

また、実際の高校生の診療事例も紹介されました。腹痛や下痢、朝起きられないといった身体症状で受診した生徒が、詳しく話を聞いていくうちに大きなストレスを抱えていることが分かったという内容でした。

先生は、「心の不調は身体の症状として現れることが少なくありません」と説明し、自分の体からのサインに気付くことの重要性を伝えました。

受験生に知ってほしい生活習慣の大切さ

講演では、受験生向けのクイズを通して、学習効率と健康の関係についても学びました。

朝食は取った方が勉強の効果があると言われているのはなぜ?

脳の唯一の栄養はブドウ糖です。朝食を摂ることで脳に必要な糖分が補給され、身体も目覚めるため学習効果が高まることが紹介されました。逆に、寝る直前の食事は、満腹感で眠気を誘い、よく眠れるように感じますが、実際には、寝ている間に腸が働くため、身体が休まりにくいということでした。

徹夜で勉強した内容の記憶の定着は悪い?

「徹夜で勉強した方がたくさん覚えられる」と思いがちですが、実際には睡眠中に脳が記憶を整理・定着させるため、徹夜は学習効率を下げてしまうそうです。さらに、乱れた睡眠リズムを元に戻すには週単位の時間がかかることも説明されました。

17歳にとっての睡眠時間のベストは6時間半?

講師からは、高校生には約8時間の睡眠が必要であり、睡眠不足が続くと集中力や判断力の低下につながることも紹介されました。日本は睡眠負債大国であり、国際的には、昼間の眠気は異常とみなされ、十分に眠っている人は、日中は眠くならないと説明されていました。

また、就寝前のスマートフォンの使用は脳を覚醒状態にしてしまうため、睡眠の質を下げる原因になるとのことでした。

キーワードは「セルフアウェアネス(Self-awareness)」

講演全体を通して繰り返し語られたのが、「セルフアウェアネス(Self-awareness)」という考え方です。これは、「自分の心と体の状態・様子を意識すること、気付けること(まずは気付こうとすること)」のことです。

先生は、「まるでドローンで自分自身を上から眺めるように、自分の状態を客観的に観察すること」と表現されました。私たちは、「なぜかイライラする」「やる気が出ない」「何となく苦しい」という感情を抱いていても、その原因に気付けないことがあります。頭痛や腹痛、不眠といった身体症状が現れて初めて、自分の心の疲れに気付くことも少なくありません。だからこそ、普段から自分の心と体の声に耳を傾けることが大切だと学びました。

「自分を受け入れる」ことの大切さ

受験生はどうしても結果や他人との比較に目が向きがちです。しかし先生は、「夢や目標を持つことは大切ですが、今の自分を受け入れることも同じくらい大切です」と話されました。ストレスは気付かないうちに積み重なることがあります。

そんな時には、

  • 今日うれしかったことを振り返る
  • 小さな成功を認める
  • 自分自身をねぎらう
  • 自分を抱きしめてから寝る

といった習慣が心の健康につながるそうです。

また、自分を受け入れることができる人ほど、他者にも優しくなれる、というお話も印象的でした。時には、話を聞いてもらうだけで、自分で頭の中の整理がつくこともあるそうです。「こんなんでいいのかなぁ」と思いながらも、話し相手になるだけで、友人は気持ちの整理ができる。「そうなんだ、そうなんだ」と聞いてあげるだけで癒しの力になる、という言葉が心に響きました。

呼吸で心を整える

受験本番や面接などで緊張した経験がある人も多いでしょう。先生は、自律神経の働きを説明しながら、「脈拍は自分でコントロールできませんが、呼吸は自分で整えることができます」と話されました。緊張でうまく呼吸できないときは、「吸う」ことよりも、「ゆっくり吐ききる」よう意識すると、その後、おのずと息を吸えて、呼吸が自然とつながり、心が落ち着きやすくなるそうです。実力を発揮するためには、勉強だけでなく、自分を落ち着かせる方法を知っておくことも大切です。

実際に先生が過去に紹介し、その呼吸法を取り入れた「マインドフルネス」によって、大切な場面で実力を発揮できた茗溪の卒業生の事例を嬉しそうに語られました。

幸せをつくるのは人とのつながり

講演の後半では、ハーバード大学による長期間の研究も紹介されました。その研究によると、人の幸福や健康、長寿に大きく影響するのは、お金や地位ではなく、「良好な人間関係」であることが分かっているそうです。先生は、「幸せは自分で感じ取るもの、ないものを嘆くのではなく、あるものに感謝する」と話され、寝る前にその日に出会った誰かや、身の回りの何かに対する「ありがとう」を探してみましょう!と勧められました。家族や友人、先生など身近な人との関係を大切にすることが、将来の人生を豊かにしていくというメッセージが生徒たちに届けられました。

信頼できる誰かに頼る、打ち明ける

自分の限界を知り、周囲にヘルプも出せることは社会を生き抜くための大切なスキルです。一人で抱え込まず、困った時に助けを求めることは、自立した大人になるために必要な力でもあります。

不安や悩みを言葉にすることで、自分の気持ちが整理され、問題を客観的に見ることができるようになります。そうすることで、次のステップを考えることができるようになるのです。

また、誰かの話を聞くときは、解決策を急いで伝えるのではなく、「そうなんだ」「大変だったね」と受け止めることが相手の支えになることも学びました。

先生は「もし親友だったら、どんな言葉をかけてあげたい?」と問いかけられました。生徒たちがスマートフォンに入力した言葉が、画面に次々と映し出されていきます。そして、先生は、自分自身にも、大切な友達と同じように声をかけてあげてくださいと、自分を大切にすることの重要性を教えてくださいました。

先生から生徒たちへのメッセージ、及び、聴講した保護者の感想

講演の最後に、堀内先生は生徒たちへ次のようなメッセージを送りました。

「受験生、その後の大学や社会に飛び立ち、人生を切り拓いていく中で、セルフアウェアネスは鍵になります。」

「受験は長期戦です。睡眠時間を大事にしてください。」

「継続は力なり、努力して勉強することはとても素晴らしい。何より頑張った自分を認めよう!それと同時に、生きているだけで100点満点です。」

「うまくいかないときは、信頼できる誰かに話をもちかけてみよう」

受験勉強は学力だけでなく、自分自身と向き合う時間でもあります。受験期は模試の結果や周囲との比較で、自信を失いやすい時期です。しかし、「今日も学校へ行けた」「1時間集中できた」「苦手科目に向き合えた」そんな小さな頑張りを認めてあげることが、自信につながります。講演で紹介されたように、「今日もよく頑張ったね」と自分自身を労う習慣は、受験を乗り越える大きな力になると思いました。受験は学力だけの勝負ではありません。睡眠をとること、食事をすること、誰かに相談すること、休むこと、自分を認めること。こうした「心と体を整える力」があってこそ、勉強したことが実力として発揮されます。親は勉強を教えることはできなくても、子どもが安心して話せる環境を作り、「頑張れ」だけでなく「無理しすぎていない?」と声を掛けられる存在でありたいと思いました。また、「最近眠れている?」「ご飯おいしく食べられてる?」という何気ない声掛けを大切にし、ちょっとした変化に気付いてあげたいと思いました。

受験はゴールではなく人生の通過点です。大学合格だけでなく、これから社会に出ても役立つ「自分を整える力」を身につけてほしい――そんなメッセージが込められた、とても意義深い講演でした。生徒たちがこれからの受験期を、自分の心と体を大切にしながら歩んでくれることを期待しています。